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「海洋学と社会の接点~サイエンスコミュニケーションの視点から~」

2016/01/13

 高1・高2の希望者を対象として、東京大学海洋アライアンスの保坂直紀先生による海洋人間学講座が行なわれました。今回のテーマは主に2つ。「なぜ科学を社会に伝えることが必要なのか」と「科学を伝えるのはなぜ、どのように難しいのか」です。   
 これらのテーマは、まさに先生のこれまでのご経験やお立場をふまえられてのものです。海洋物理学を研究されてきた保坂先生は、サイエンスライターとして一般の人々に科学をわかりやすく伝えるお仕事もされています。科学はおもしろいが、一般の人々になぜ馴染みにくいのだろうということを考えながら、科学を社会に伝えることの意味や必要性を追求されているのです。
 とにかく講義の事例が豊富でした。魚類やサンゴ、海流といった海の問題だけでなく、「原発安全宣言」を扱った新聞記事やアメリカのインフルエンザ感染性研究停止問題を扱った新聞記事、あるいは日本における自動車交通事故の死傷者数の推移統計データ、それに東宝映画『ゴジラ』(1954年版)も登場しました。これらを紹介しながら、科学と社会(市民)の関係性をめぐる現状についていろいろな観点から、生徒に考えさせてくださいました。また、講義の後半では、読売新聞社科学部の記者としての経験をふまえた、保坂先生による"文章講座"を聴くことができました。
受講生の感想の一部を以下に紹介します。


 「政治的決定に科学が絡むときの科学者と政治家、市民の立ち位置や責任など今まで考えもしなかったことだったので、社会と科学の接点について新たな視点を持つことができた」
 「科学技術の発展にともない、テロや犯罪に技術が流用されるデュアルユースの問題にはとくに興味をもった。今後の社会では科学と政治が絡むことが多くなり、それをどう解決するかが大きな問題となると思った」
 「科学が生活に根づいたこの社会で、安全・危険を判断するのは科学者、技術者ではなく、国会及びそれを構成する議員を選んだ国民であり、国民一人ずつに責任と権利があるということを聞いたとき、選挙と政治の動向の把握がこの国の国民として最も重要だと思っていた私に、様々な分野への関心とある程度の理解が必要だということを知ることができた」
 「科学の専門家が研究していることを分かりやすく一般の人に伝える時に注意することや、読んで理解してもらうための文章技術など、今後の自分に役に立つことを知ることができた。」
 「人にものを伝えるときの段階的な正確さ(正確ではないが、間違えているわけでもない)をどうするかということが参考になった」
 「先生のようにサイエンスライターという漠然とした内容にみえる仕事でも、実は社会と科学の重要な接点であり、必要とされている。だから、大変なことが多くても丁寧に仕事をこなすという姿勢はこれから職業が多様化していく中でとても大切なことだと感じた」

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 いくつもの具体的な事例を通して、先生の伝えたいことを一貫してお話ししてくださったからこそ、生徒の感想はその問題の本質をまとめられたものとなったのだと思います。
 保坂先生は、生徒たちに次のようなメッセージを送ってくださいました。一般の人たちは、議論のなかで"科学"的な言葉で説明されると、それが確かだと思ってしまう。そんななかで君たちには"つっこみ"を入れられるようになってほしい。政治的な決定が行なわれるなかで、科学がねじまげて使われていないか、その見張り役となってほしい。ちゃんとした世の中にしていくためにも一人ひとりが科学を知るべきである、と。まさに、"科学と社会の接点について"新たな視点を得て、それについて深く考えさせられた一日でありました。

カテゴリー :
海洋人間学

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