学校生活
土曜講座 サントリー美術館で絵金に出会う
10月4日(土)六本木のサントリー美術館に、中1~高1までの講座登録者28名が集まりました。10時に集合し、15時前に解散しました。途中にお昼ご飯タイムをはさみましたが、45分授業に換算すると×5コマ分の授業を体験しました。土曜講座「そうだ!博物館へ行こう!!」サントリー美術館編の報告です。
事前課題の問いは3つ課しました。そのうちの一つは、「今回の特別展の配付チラシをみて、思ったこと、考えたことを自由に記してください。」というもの。
回答では、「うでや足の関節の曲がり方が現代とは違うことに気づいた」「人の表情などで、現代のマンガのようにコマが分割されておらず、1つの絵でもどのような話なのかがだいたいわかって面白い」率直なコメントを書いてくれている生徒が多くいました。
まずは、一コマ目の活動です。入館早々エデュケーターの方に講座をお願いしました。サントリー美術館そのものについて説明していただき、「見るレッスン」開始です。対話型鑑賞とよばれる取り組みです。簡単に復元して紹介しておきます。

エデュケーターの方の質問・コメントに下線を付しています。
一作品目は「船弁慶」でした。

「Q 何が起きていますか?」
・左と右の人がたたかっている
・悪霊退散? → 「Q)どういうところが?」 → 右側の人が生きた感じがしない、三角が頭についている
・船の上の人には数珠
・右下の人が泣いている? 船酔いかな。
「Q)まわりの景色をみてみましょう」
・左に三体の幽霊? → 「Q)どこからそう思った?」 → 下半身がなかったり、悪霊と肌が同じ
・右に赤、左に白 源氏と平氏?
・全体的に暗い背景。左の人たちの肌の色。悪霊を払う絵だな。
このコメントのあとに、すかさず、「背景に注目してもらいました」とコメントされていました。
・お化け屋敷でみるような火の玉がある → その人たちが幽霊であることを示しているのかな?
・後ろの背景は白。雷なのでは?
→「Q)天気はどうですか?」
・空が黒いから雨が降っているのではないか
→「Q)ほかにもありますか?」
・荒れた海
→「波の様子にも注目してくれました」
・赤い服の人が右の人を守っている
このコメント直後、前方スライドで指し示してくださいました。
そして、さらに問いかけ「Q)なんで守っているのかな?」
この答えに
・自分の上司だから
素直なコメントが微笑ましかったです。そして生徒たちのコメントは続きます。
・船のまわりの波のはげしさをみると、海の亡霊が襲っている?
・3体の幽霊は、目と口から赤いのがでてきる。
→「Q)何だと思う?」
・死んだ理由とか
・おぼれてしまった? たたかって切られた?
・左の人、下半身あるようにみえるけど、足がない!
・やりの先に水しぶきがある
→「水しぶきに注目してくれました」
・つなみたいなものがある? 海につながれているのでは?
→画面を指し示し、「ここです」と紹介。
はじめこそ硬かった生徒たちですが・・・。エデュケーターの声掛けによって、続けざまに何かしらのコメントをしていく生徒たちの姿をみて、引率教員としてとてもうれしくなりました。ポインティング(指図)、パラフレーズ(言い換え)、フォーカシング(焦点化)、コネクト(結びつける)などの対話型鑑賞の手法を適宜はさんでいただき、うまく対話を重ねていただきました。
美術館でみる初見資料を、教員の側が担当しても、なかなかここまでうまくはいかないと思います。事前打ち合わせを通じて、綿密に美術館側のエデュケーターが準備をしてくださっていたからこその時間だと思います。しかも、例年お世話になっていることもあってか、本校の生徒の扱いに慣れています。意見何かある人?と全体に問うと、意見はでてきませんが、マイクを直接向けてみると、何かしらのことを発言してしまう彼ら。エデュケーターの方はそういった生徒の特徴をふまえた上で、生徒の側を歩き回って、ひたすらマイクを傾け、彼らのコメントを丁寧に拾っていただきました。
そしてもう一点の作品にもチャレンジ。二作品目は絵馬提灯の「釜淵双級巴」の第十二の場面でした。
今度は、スクリーンを一分間見続け、そのあと三人ごとに話し合い。
そして一作品目と同じようにコメントしていました。
・ピンクと明るい背景で、あたたかいイメージ
・左側の人のところに遊び道具、右の人がお世話しているのかな?
・お父さんが仕事に行くために赤ちゃんを背負っているのかな? 短い時間で遊ばせてる
←「色の印象 こっちと違いますね?」
・お父さん刀持っているけど・・・ふつうの仕事ではない?
・ろうそく、あかりつけるやつあるから 夜なのでは?
・右の人の服装は貧相ではないか。髪型はまげをゆっていない 大道芸しているひとなのかな?
・赤ちゃんのお母さんもつかれて → 「お父さんがあやしている」
・左側の人の手の向きがちょっと変だから死んでいるのでは? 首の向きもそっぽ向いているし
→「同じことを思った人はいますか?」
ちらほら手をあげる
・殺した結果、赤ちゃんをあやしているのでは?
→「父にも見えるし、犯人にも見えますね」
このあたりのコメントを経て、
「この女性は、実はぐっすりねています。どうして右の人があやしているのかは、展示室でじっくりみてもらえれば。」
と展示室見学への誘導をはかって「見るレッスン」が終了しました。
ここで10:50。
両作品ともにさまざまな意見を引き出した上で、展示室に行ってさらに見てみたくなる声掛けとなりました。
一枚目・二枚目ともに、展示室内の作品を見て、説明文を読んでどんなことを考えるのでしょう。
死んでいるように見えたお母さんは、そうみえるほど、ぐっすり寝ていることが表現されていたのでした。
それぞれの見方がでてきてとても興味深い時間を過ごせました。特に、ろうそくの存在から、夜が描かれていることを指摘した生徒には驚かされました。
その後、二コマ続きで各自の展示見学です。11:00~12:30まで。見学とともに、当日課題に取り組んでもらいます。当日課題は、以下の通りでした。
Q1)展示作品中において、気になった表情をしている人物を3人選び、それぞれ作品番号と作品タイトルを、それぞれ以下に記してください。(加えてその人物が作品のどこにいるか簡単に示しておいてください。)
Q2)Q1)で選んだ人物の「目・鼻・口・まゆ」のみを描いてください。
Q3)Q2)で描いた人物の吹き出し(コメント)を記してください。
Q4)Q3)で記したコメントの背景を記してください。なぜそんなコメントにしたのか?キャプション(説明文)やその絵画から読み取ることのできる情報を自分なりに解釈して説明してください。
展示室内では、手際よく書いていました。リピーターほど、じっくり鑑賞している傾向があります。スタート時の「見るレッスン」も効果を発揮し、細部を見ることにつながっていることを感じることができました。
こういった鑑賞する技術は、今後に活きると思います。90分もあっという間。再集合し一時解散です。お昼休みは12:30~13:15まで。
美術館内では食事ができませんので、外にでて食事をとります。六本木ですので、昼食の単価が高い!そのため、事前に手ごろなお弁当を売っている場所やスーパーの場所をレクチャーし、各自に過ごしてもらいます。
引率教員としては、美術館内の講座内容も大切ですが、お昼の自由時間経験も大切だと思っています。この講座は、友達同士で参加する子もいますが、一人で参加している子が多いのです。普段は接点のない顔見知りの友だちに声をかけ、新たなつながりをつくる子もいますが、見知らぬ土地で、一人でお弁当を買って、一人で食べる場所を見つけ、一人で食べる経験もとても大きいと考えています。学校は集団行動を学ぶ場でもありますが、友だちと群れることなく、一人で時間を過ごす経験も大切だと考え設定しています。
生徒たちを観察していると、勝手に食べて、勝手に戻っていきます(内心は緊張している生徒も多いのかもしれません)。スーパーでお手頃な焼きそばを見つけ買ってくる子もいれば、持参したお弁当を食べている子、専門店のお弁当を食べている子、おしゃれなパン屋さんで購入した素敵なパンを食べている子もいます。少し安めのお弁当を購入し、お菓子を追加して食べている子もいます。現地集合・現地解散のスタイルとあわせ、お昼ご飯の時間体験も中学生にとっては貴重な経験です。
再集合後は、三人一組で課題に取り組んでもらいます。13:00~14:30まで二コマ分の活動です。
課題は、こちらで選んだ絵金の絵を各班に配付し、その作品について、小学生にもわかるキャプション(解説)をつくってもらいます。
まずは展示室内で再度絵金の絵と向き合ってもらい、各自が盛り込みたい内容を付箋に記してもらいます。
そして活動場所で、意見をつきあわせ、協力して400字詰め原稿用紙に、記入してもらいます。こちらもあっという間。

「硬い」文章がとっても多い!!
おそらく彼らの「美術館・博物館イメージ」の敷居が高いからかもしれないと感じます。学年があがるほど、教科書的な、真面目な文章になりがちな印象を受けました。文章を小学生向けにくずすよう、声掛けをしました。
低学年生徒の方が、小学生目線に近いせいか、柔らかい文章になりました。ここでは一つだけ紹介しておきます。
担当した絵は、『釜淵双級巴』最後の釜茹での場面
「左の絵!左側に注目して見てね!!このおじさん今何されてると思う?そう!!今鍋に入れられて焼かれてるよね!!なんでこの人が焼かれているかな?この人の名前は石川五右衛門といって、人を殺しては金を盗んでいった有名なドロボーなんだよ。まあ捕まって今焼かれちゃってるわけなんだけど、この人ね、この時に仲間の名前聞かれたときにかっこいい言葉言ったの!!まあ意味はあんまり良くないんだけど、自分が死んでもドロボーは消えないよって!!で、みんなはこの人かわいそうだと思った?それともドロボーなら焼かれてもいいよねって思った?この絵をみてよく考えてみよう」(J2H・Y、J1K・S、J1S・H)
最後に、3班ほどに発表してもらいました。「おおっ」と笑いが起きた箇所も。即興チームで取り組む課題となりましたが、楽しい時間を過ごしました。

今回のリピーターは抽選後で28名のうち10名ほど。毎年の講座の満足度が伝わってきます。一日を通してお世話になったサントリー美術館の皆様にこの場を借りて御礼申し上げます。なお、すでに来年の予定も確定しているとのこと。目的とする展覧会も定まりました。来年度もよろしくお願いいたします。
*サントリー美術館「幕末土佐の天才絵師 絵金」2025年9月10日~11月3日
https://www.suntory.co.jp/sma/exhibition/2025_4/index.html
最後に、感想をいくつか紹介しておきます。
J1S・H
今回の体験を通して、絵をじっくり見ることが楽しいことを知りました。絵をよく見ることで、人物の個性豊かな表情がよく見え、心情がわかります。そういう風に見ていたら体感5分ぐらいなのに30分近くまでたっていました。これほどぼっとうしたのは自分でもおどろきました。これからもこのような体験をしていきたいと思いました。
J2O・R
今までかぞえるくらいしか美術館にはいったことがなかったので、新鮮なきかいだった。すべてに複雑なストーリーがあって難しかったが、面白かった。
J2A・T
今まで美術館に来たことがなかった。今回来たことで、絵は人によってさまざまな見方があることが分かった。また、細かいところにも時代背景や状況が読みとれた。絵の奥深さが分かってよかった。
J2Y・H
後半の班ごとでの活動ではみんなを仕切るのがとても大変で、普段自分たちをまとめてくれる先ぱいの気持ちがよくわかった。
J3K・T
当日課題の絵の中の登場人物の吹き出しを書く課題で、今まで絵を鑑賞する中で意識してこなかった登場人物の置かれている状況や当時の気持ちについて考えながら鑑賞できてよかったです。
S1Y・M
美術館には普段あまり行かないのだがこうして実物の絵をみて、当時の状況や絵師の心情などについてじっくり考えるのはとても面白かった。幕末の絵とはいえ学校での授業では習わないような深い内容まで学ぶことができて、当時の状況についてより深く考えることが出来た。