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12月の映画 「一枚のハガキ」

2012/12/07

 太平洋戦争末期、敗色濃厚な時局に徴集された100人の中年兵たち。彼らの運命は、あろうことか上官の引くくじで決まっていった。

 その結果、国内に残留することになった松山啓太(豊川悦司)は、仲間の森川定造(六平直政)から一枚のハガキを託される。それは、定造の妻・友子(大竹しのぶ)の、愛する夫の不在を嘆いた短い手紙だった。定造はくじでフィリピン行きが決定し、もう生きて妻には会えないと覚悟していた。自分の死後、啓太に友子のもとを訪ねてもらい、そのハガキを確かに読んだと伝えてほしいという。啓太は請け合った。友子の独特な文面が、どこか啓太の心にとまったのかもしれない。

 日本は負けた。啓太が生き残り、定造は死んだ。啓太は自分の家に帰宅するが、妻がいなくなっていた。妻は啓太が戦死したと思い、啓太の父親と家を出てしまったのだ。くじのために生き延びたことが皮肉にも思え、いたたまれなくなった啓太。その後、気の抜けたような孤独な生活を送っていたが、ある時、あの手紙が出てきた。

 啓太は友子を訪ねた。彼女は戦争で夫を失ったのち、遺された夫の家族との暮らしを受け入れ、気丈に生きてきた。しかし、今はすべてを失ってしまっていた。くじで生かされた男と、戦争に運命を狂わされた女。一枚のハガキが、戦争で深く深く傷ついた、ふたりの人間の魂を癒す「奇跡」を起こしてゆく。

 

 99歳にして映画を撮るということは、それこそ奇跡に近いことだ。新藤兼人監督の「一枚のハガキ」は、これだけは映画にしておきたいと長い監督生活にわたって温め続けてきた、自身の徴兵体験をもとに、戦争の非道と運命に翻弄される人間の悲しみと強さを描いた、日本映画にとって、まさに珠玉の作品である。

 作品のテーマとなっているこのハガキは、戦争中に監督自身が実際に目にしたものだという。その短い文面は、寂しさと切なさにあふれた、美しい一篇の詩のように感じられる。新藤監督も引いたくじ引きで生き残ったのは、100人のうち、彼も含めわずか6人だったという。

(新藤兼人監督作品/2011年近代映画協会/1時間54分)

2012年度上映作品
No.251 2012 6.10-11 ヘルプ~心がつなぐストーリー~(アメリカ) 中3高1映画鑑賞
No.252 2012 7.8-9 ステキな金縛り(日本) 中1中2映画鑑賞
No.253 2012 9.17-18 サラの鍵(フランス) 高2高3映画鑑賞
No.254 2012 11.11-12 テルマエ・ロマエ(日本)

No.255 2012 12.09-10 一枚のハガキ(日本) 中3高1映画鑑賞

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